住記屋

私の家、設計者の家

 
設計相談の際、聞かれることがあります。

「一案だけ考えて頂けませんか?」

出会ったばかりの設計者。

設計契約前にどんな設計案が出てくるのか一度見てみたい。

その不安な気持ちから出る言葉とその裏にある心情は

設計者である私もよく分かっていますが、それはとても難しいことです。

これは「タダでは図面をかきませんよ。」と言っているのではなく、

設計料を頂いたとしても難しいのです。


例えば、初めて事務所にお越し頂いた方から土地の図面を頂いたとして、

相談時に予算と家族構成をお聞きしたとします。

その後、現地調査、敷地調査をすれば「簡単」に第一案は出来ます。

しかし、この第一案を見て施主さんに

「私の家」と実感して頂けるでしょうか?

おそらく答えはNOです。

それなりに要望は満たしていたとしても、よそよそしく感じるだけでしょう。

なぜなら、この第一案は「設計者の家」になっている部分が多いからです。

施主の趣味、価値観、主義、思想を把握する前に

設計をスタートしたとすれば、設計者が判断して設計するしかありません。

ということは必然的に「設計者の家」になってしまうのです。


こうならないためにも、私の場合は設計前に新しい住まいに関する

アンケートの記入をお願いしています。

基本的な情報から新しい生活に対する思いを何でも良いので記入して頂き、

それを一緒に見ながら雑談を交え、お話を聞かせてもらっています。

施主さんに「私の家」と思ってもらえる案を作るための大切な過程です。


施主の趣味、価値観、主義、思想を把握するとは

施主に「同化」する事だと思っています。

ヒアリング、雑談、無駄話を重ね、

場合によっては何案もプランを一緒に練りながら

徐々にその人に「同化」して行くしかありません。

それを第一案だけで実現することはとても難しいことだと思っています。

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